2011年7月4日月曜日

【読書】ストーリーとしての競争戦略

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)書店に行けば平積みされているので、読んだことはなくてもこの表紙とタイトルを目にした方はたくさんいらっしゃるんではないでしょうか。ボクは1ヶ月ほど前に読み終わってたんですが、これ、(あまりに良くて)皆には読んで欲しくないな…と思って感想を書くのを渋ってました(笑)。


「人は、モノを買うのではなくストーリーを買うのである。」という言葉があります。
例えば、ここに1本のワインがあるとします。
店員さんから「このワインはボルドー産でフルボディ、濃厚さと重厚感が云々・・・」と言われるよりは、
「このワインが生まれた背景には、実はあるワイナリーの壮絶な戦いがあったんです。ワイン造りに一切妥協を許さないことで知られる○○さんが全財産を投じて云々・・・」と言われた方が、断然そのワインに対して興味が湧きませんか?
(そういう意味では、以前JMMで続いていた[JMM]特別寄稿~ワインは語りかける~/内池直人という連載は非常に危険なメルマガだった(笑))

ボクがいるIT業界でよく見られる「事例」も、ストーリーです。例えば何かプロダクトを持っているとして、その製品の既存ユーザーさんの事例というのは、新規の見込客に対して絶大な効果を発揮するんですが(もちろん、発揮するように作るんですが)、これも事例というストーリーを背景に共有することで、購入までの障壁を取っ払う仕組み。その話はまた今度。

いずれにしろ、営業をやったことがある方なら『ストーリーテリングは、最も過小評価されているビジネススキルである。』というゲイリーの言葉を知っている方も多いでしょう。
~Twitter、Ustream.TV、Facebookなど、ソーシャルメディアで世界一成功した男~ゲイリーの稼ぎ方(ソーシャルメディア時代の生き方・考え方)


この話は、そういったストーリーとは違います。

長々と関係ない話をしてしまってすいません。
ただ、ボク自身がこの本の内容を上記のように思い込んでいたので読むのを後回しにしていたんですが、いやこれは、是非皆さん読むべき名著であると思い、「そういう筋の本じゃないよ」と言いたかったので長々と関係ない話をしました。


さてこの本。ハードカバーなのでさぞかし(ハーバードビジネススクールシリーズのような)重厚な文章で検証されつくした理論が展開されていく重ための本、かと思いきゃ、文章のタッチがとても軽くて非常に読みやすい。どちらかと言えば、ちょっとくだけた方に分類される。例えも軽妙でわかりやすく、スラスラっと読み進められるんだけど、スルスルと読んでいるうちにポーターの競争戦略のエッセンスや、それを踏まえた上で著者の唱える「ストーリーとしての競争戦略」が立体的に頭に入ってくる。

ズルイのは、第1章の最初のページで、こんな文章が出てくるところ。
この本を手に取って読んでくださっている方々の多くは、ビジネスを実践している実務家だと思います。皆さんのような実務家に対してお話をする機会を、私はこれまでに数多く経験してきました。そうしたときには、いつも私は思います。私の話を聞いて実務家の頭によぎるのは、こういうことなのではないでしょうか。「おまえに何ができる?偉そうなことを言うな!」
のっけから、いい感じの先制パンチ(笑)。ボクの周囲にも、「本なんて読んでる時間があったら実践して経験を得る方が良い」という主張の人が多いけど、そういう人には是非これに対する著者の見解を読んでみて欲しいと思います。「理屈じゃないから、理屈が大切」という逆説。


ストーリーとは何か?競争戦略とは何か?そして本題のストーリーとしての競争戦略とは?ということが、スターバックスやデル、サウスウエスト航空、アマゾン、マブチモーターやアスクルなどの事例を引っ張りながら、非常に丁寧に、かつ小説を読むかのごとく気楽に読み進められます。

ボクがここで中途半端に内容を紹介するよりは、是非通して読んでいただきたいので引用等は控えますが(というか、引用したいところだらけなんですが)、これを読んだ後、絶対に自社ビジネスの根本的なところからじっくり再考したくなるはずです。

企業が出す様々な打ち手が複雑なパスとして絡み合い、一見、非合理な行動が実は他社を跳ね返す源泉となって一筋のストーリーとなり、競争優位を保ち続ける結果となる。
普段何気なく見たり聞いたり感じたりしている「イケてる会社」に対する見方に、新たな視座、気付きをもたらしてくれます。

ベストセラーになって当然、超オススメの本です。


(おまけ)
これを読んだ後、IT業界において今いちばん筋の良い、そしてホットなストーリーを持って戦略を展開している企業を考えてみた。きっと「すべてを記憶する」、Evernoteじゃないかな?
(facebookとかはもう完全に突き抜けちゃってるんで、外しました。いや、まぁ、Evernoteも突き抜けてますけどね…)

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