2010年12月19日日曜日

【読書】ビジネスで一番、大切なこと

ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業
「読む本リスト」の一番最初にリストしていた本書。最近すっかり読書から遠ざかっていたが、ようやく時間が作れたので一気に読んだ。

ボクの中で「良書」というのは、
(1)読後に胸がザワザワする、思考したくなる、試したくなる
(2)感覚的に理解していたことが、明確な言葉で説明されている
(3)何度も読み返せる
を満たしている本なんだけど(抽象的でスイマセン)、これら3つを軽々と達成しているこの本は間違いなくボクにとって「良書」。

タイトルからすると一見、「日本でいちばん大切にしたい会社」のように「感動ストーリー」的な自己啓発本系のノリを思わせるが、さすがハーバード・ビジネススクール教授、中身はマーケティングについて非常に良く整理された「マーケティング脳を再構築」するための非常に刺激的な内容。

本書はハウツー本ではない。現代のビジネスパーソンに必要なのは、斬新な指針ではなく、斬新な考え方だ。(P.20)

とあるように、この本は「答え」を示すのではなく、あくまで「視点」と「アプローチ」をソリューション案として提示してくれている。
(いくつかブログ上での書評を見てみたけど、ここを理解せずに短絡的に読んでしまったような書評が多いように感じる)


冒頭、いきなり気付かされる。
ビジネスの成功の要は、競争力にある。競争力とは、競合他社といかに差別化できるかである。ところが、その差が細かくなりすぎて、多くの消費者がいぶかしく思う段階に達すると、ある日突然、差別化は無意味になる。(P.16)


例えばあるカテゴリ(車、デジカメ、ミネラルウォーター等々)の製品を「価格」「機能」などの評価軸で比較すると、当然製品ごとに強み、弱みのデコボコ(差別化要因)が出来る。このデコボコを見た製品のマーケティング担当者が反射的に、そして自然にとる行動は「弱み」の強化だ。これはボクも当然のように経験している。ところが、各社がそれぞれに「弱み」の強化を行うことによって、カテゴリ内の製品は均質化してしまい、結果上記の通り差別化が無意味になってしまう。
10年前、ボルボは実用性と安全性で知られており、アウディはスタイリッシュさで人気があった。最近では、アウディは安全性テストでボルボをしのぎ、ボルボの広告はスマートな走りを演出している。(P.31)

なるほど確かに、成熟を迎えたカテゴリの製品と言うのはどれも似たり寄ったりだ。より良くしようとするほどにこうなってしまうとは、なんたる皮肉。


企業は消費者の望みに応えるべくベストを尽くし、次の2つの方向で製品を進化させる。「付加型」(機能の追加)、そして「増殖型」(選択肢の追加)。しかし、そうすることによって消費者にとっては細かな違いがわからなくなり、結果、製品としてではなくカテゴリ全体としてボンヤリと捉えるようになり、消費者によっては「どれでもいいや」という状態になってしまう。
『消費者によっては』と書いたが、ここではキャズムを引き合いに出し、
これと対を成すものとして、過度に成熟したカテゴリーから生まれる多すぎる選択肢に人がどのように対応するかについても、セグメント化の枠組みを作れるのではないだろうか。(P.70)

として、以下のように分類している。
①知識豊富な“カテゴリー通”
②目ざとい“買い物上手”
③関心の薄い“現実主義者”
④いやいや関わる“不本意な人々”
⑤理屈抜きの“熱心な愛好家”

この視点、まさに上記(2)の「感覚的に理解していたことが、明確な言葉で説明されている」と思える部分。この時点で、一気に最後まで読み切ることを決意した。

その後、これらを前提に「リバース・ブランド」、「ブレークアウェー・ブランド」、「ホスタイル・ブランド」と名付けられたアイデア・ブランドについて、具体的なケーススタディを交えながら説明される。

・世の流れの逆を行くリバース・ブランド:グーグル、IKEA等
・既存の分類を書き換えるブレークアウェー・ブランド:AIBO、スウォッチ等
・好感度に背を向けるホスタイル・ブランド:ミニクーパー、レッドブル等

これらのケーススタディは非常に印象的に描かれているし、とても勉強になる。


最後は、「大事なのは考えること、アイデアを潰さないこと」をテーマに、まとめに突入。
差別化の取り組みにはイノベーションが必要で、そのことが私たちをひるませる。必要なのは、エンジニアが行うような技術的なイノベーションではなく、発想のイノベーションである。
(中略)
これらのアイデア・ブランドのすべてにおいて、差別化は「物事を抜本的に新しい方法で行うことは可能である」と考えるところから出発している。差別化はイノベーションによって始まる。そして、イノベーションは実に多くの様々な方法で実現できる。(P.162)

先に多くのケーススタディで学んで脳ミソが柔らかくなった僕らは、それを理解できる。

一貫性のない人間(消費者)に、常に向き合い、取り組み、その取り組みを通して人々に伝えることが大事。そう締めくくられる。


冒頭にもある通り、この本は「答え」ではなく、「考え方の多様性」を提示しているので、アイデア・ブランドについても、それは完全ではなく考え方の一つ、と紹介されている。
頭が凝り固まってしまったような時にぜひまた読み返したい、ヒントを与えてくれる本だった。


読後、一部だけ違和感が残るとすれば、本書のタイトル。もっと別のタイトルの方が良かったんじゃないかと思うが…。



(おまけ)
先述のボクの「良書の条件」で、特に(2)について。
「そうそう、そうなんだよ」ということをズバリ単純明快に説明している本(著者)というのを、ボクは心の底から尊敬する。「そんなの、わかってたよ」と読後に思わされた時に、しかしそれをここまで彩り鮮やかな背景で説明できない自分と、それをサラリとやってしまう著者との間の思考力、想像力、分析力、文章力の差に圧倒されてしまう。「わかっている」ということと「わかっているつもり」の差、とも言えるだろうか。
例えばドラッカーなどもその最たるものだと思う。多くの人が何となくわかっているようなことを、圧倒的な説得力をもって明快な文章にしているわけだが、この差(文章にできているか、できていないか)はとてつもなく大きいと思う。
その意味では、本書も(テーマは絞られているはいるが)その語り口はドラッカーに匹敵するほどのものだと感じる。次回作も期待。

(さらにおまけ)
ドラッカー、と書いてしまったのでさらにおまけ。
ものすごく意外だったんですが、ドラッカーの本、口述筆記だそうです。
「まず自分で大枠を考えてしゃべる→それをライターが書きとめて原稿にする→できあがった原稿を一通り読んだ後、いったん全部捨てる→また新しく構成を考えて最初からしゃべりなおす→ライターがまた原稿にまとめる→それを読み、再度捨てて、一から語りなおす」・・・こうして同じことを3回繰り返して、ようやく本になるんだとか。(パーソナル・マーケティングでコラム的に紹介されています)
あれだけ構成とロジックがしっかりしているのには、やはりもの凄い労力が注がれているんですね。

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